ストーリーstory

父に対する想い未経験から
不動産業界に飛び込み、
会社を承継

「人生には限りがある」そんな当たり前のことを再認識したのは父の病気が見つかったときだった。不動産会社を経営していた父から「会社を継がないか」と言われ、初めて父が人生の終わりを意識していることを知った。もともとメディア関係の仕事をしていた私は、不動産業界のことはほとんど知らない。しかし、尊敬する父の側に1秒でも長くいたい、そして父が全力を注いできた“生きがい”を直接学びたいと思い、会社を継ぐことを決意した。父が不動産業界に入ったのは23歳の頃。75歳でこの世を去るまでの52年間、不動産業界一筋だった。長年、マンションのデベロッパーに勤めた父は、「都内の高級マンションのモノづくりを自分の手で広めたい」と意気込み50歳で起業。“住み手に寄り添ったモノづくり”にこだわり、ハイクラスの人たちが伸び伸びと暮らすことができるマンションを追求した。管理人室をあえて見えない場所に設置し、見栄えを意識したエントランス。
1日2回の清掃が入る、各部屋の横に備えられた専用のゴミ捨て場。
一般的なものより1m以上広く、ゆったりとした駐車場……
これらは、利益よりも「最高の住み心地」を追求した
父ならではの設計だ。追求に追求を重ねたマンションをご購入していただいた住民の方々からは、今もなお感謝の声を多数いただいている。それが父の生き甲斐にもなっていたのだろう。

父から学んだこと「人様に迷惑をかけるな」
父の教え

そんなこだわりが詰まった父から会社を引き継いだのは、私が38歳のときだった。会社を引き継ぐ中で、最も難しかったのは「物件選び」。ほとんど不動産に携わってこなかった自分には、値崩れしない物件の見分け方がわからないのだ。しかし、50年以上の経験と感覚を持つ父は、物件を見ずに、図面と立地と利回りだけで数千万円のマンションを購入する。長年のセンスや感覚は言葉にできるものでもなければ、簡単に引き継げるものではないことを痛感した。どうして父がその物件を購入したのか、その理由を自分が納得するまでディベートして、わからないことは全て聞く。恥じらいもなく、なんでも聞くことができたのは親子だからこそのメリットだったと言えるだろう。父もまた、真正面から向かってきてくれていた。そして、真面目で几帳面な父は、とにかく人に迷惑をかけることを嫌った。幼少期の頃から「人様に迷惑をかけるな」と口酸っぱく言われていたが、会社の引き継ぎにおいても配慮や気配りについては何度も指導を受けたものだ。

父への感謝父が築いた会社に
自分ならではの
味を足していく

これからは、父から引き継いだ不動産を軸に、前職の経験を活かした広告代理業や、飲食業の展開も考えている。飲食業で扱うのは、義理の母の得意料理「おいなりさん」。父も大好きで、「これは絶対に売れる」といつも周囲に話していた。70歳を迎えた義理の母の“生きがい”のひとつにすることもできるかもしれない。父は自分の生きがいだけでなく、周りの人間のことも常に頭にあったのだろう。さまざまな事業を通じて幅広く社会に貢献できる会社を目指したい。幼い頃から尊敬していた父。この世を去ってからは今まで以上に尊敬する気持ちが大きくなっている。父が常に言っていた「生き甲斐を持って生きろ」という言葉を胸に、この限りある人生を「しっかり生きた」といつか父に言えるよう、胸を張って生きていく。